大判例

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高松高等裁判所 昭和29年(う)316号 判決

論旨は本件文書(ビラ)は公職選挙法第百四十六条第一項にいわゆる「公職の候補者の氏名を表示する文書」に該当しないと謂うのである。仍て考察するに、原判決挙示の証拠に徴すれば本件ビラは

「ゆたかな生活軍備をやめて

やすい肥料と適正米価

まもれ自由と独立を」

と三行に印刷し、その各行の頭字である「ゆ」「や」「ま」を殊更大書したものであること並に本件ビラは被告人が参議院議員選挙(昭和二十八年四月二十四日施行)の投票日の前日である昭和二十八年四月二十三月原判示の如く谷川庄平、仲田稔等をして愛媛県喜多郡内の原判示各町村において頒布せしめたものであることを認め得るところ、右参議院議員選挙には愛媛県地方区より湯山勇が立候補していて、前記の如く大書された「ゆ」「や」「ま」の三字は当時通常の常識を具えている者であれば一見して右湯山勇候補者の氏を連想し得る状況にあつたことは原判決の詳細説示する通りである。而して公職選挙法第百四十六条第一項は「公職の候補者の氏名を表示する文書」と規定しているけれども、右は必ずしも候補者の氏と名を表示することを要件としているものではなく、客観的にどの候補者を指すか特定できる程度の表示を以て足るものと解すべきであるから(札幌高等裁判所函館支部昭和二九年三月一六日判決参照)、前記の如き記載方法で候補者の氏のみをあらわした本件ビラもまた前記法条にいわゆる「公職の候補者の氏名を表示する文書」に該当するものと謂わなければならない。論旨は本件ビラの記載文句は社会党の政策スローガンをあらわしたものであつて、湯山候補者を表示する意図はなく、各行の頭文字がたまたま湯山候補者の氏に符合したに過ぎないと主張するけれども、被告人(愛媛県喜多郡教員組合書記長)は本件ビラの記載が湯山勇候補者の氏を表示していることを知りながら選挙運動期間中に右候補者の当選を得させる目的で外形上日本教職員政治連盟の政策宣伝に仮托して原判示の如く本件ビラを頒布させたものであることは原判決挙示の証拠に徴し十分肯認することができ、本件ビラは政党の政策を簡潔に表現していると共に他面候補者の氏を何人も容易に判読し得るように表示したものであること明瞭であつて、所論の如く偶然の合致であるとは到底見られない。即ち被告人の本件行為は選挙運動期間中に公職選挙法第百四十二条の禁止を免れる行為として公職の候補者の氏名を表示する文書を頒布することを禁ずる同法第百四十六条第一項の規定に違反すること明かであり、原判決の認定並に法律の適用は相当であつて、論旨は理由がない。

(裁判長判事 坂本徹章 判事 塩田宇三郎 判事 浮田茂男)

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